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岡谷
-2004-05-24 01:41:27
『ハァハァハァ・・・・・・』
多くのビルが並んでいるオフィス街。
ヨウはビルとビルの間にある薄暗い隙間に、座り込んでいた。
『一体なぜ・・・・・・。こんなコトに・・・・・・』
乱れた息を必死で整えながら、ヨウはこうなってしまった原因である、人物のコトを考えていた。
『あのじいさんさえ・・・・・・。現れなければ・・・・・・』
数日前のコトだった。
仕事帰りのヨウが、その妙なじいさんに出会ったのは・・・・・・。
ヨウが出会った時。
じいさんは道ばたにうずくまり、胸を押さえていた。
青白い顔をして、額からはにじみ出るような汗を流し、だらりと舌をたれさせていた。
放っておけば、死んでしまうのではないか。
そう思ったヨウは、そのじいさんに声をかけてしまった。
まさか、これが悪夢のOnigokkoの始まりになるとは知らずに・・・・・・。
「じいさん。どうした。大丈夫か?」
じいさんは驚いた顔をして、ヨウを見た。
今にも死にそうな顔をしながら。
『これは危ない・・・・・・。救急車を・・・・・・・』
ヨウがそう思った時・・・・・・。
じいさんが、ヨウの腕をがっしりとつかんだ。
そして、最後の力を振り絞るようにして、じいさんは言った。
『ワシに・・・・・・声を・・・・・・かけた、か・・・・・・』
ヨウは驚いて思わずじいさんをふりほどこうとした。
だが、じいさんはヨウの腕をつかんだまま離さず、更に言葉を続けた。
『若者・・・・・・よ。次は・・・・・・お前が・・・・・・』
そこまで言ったじいさんの口から、大量の血が噴き出した。
そして最後の力を振り絞るようにして、最後の言葉をヨウに言った。
『次・・・・・・は・・・・・・。お前・・・・・・を。鬼・・・・・・は・・・・・・追いか・・・・・・けるだろう・・・・・・・』
その日から、ヨウの鬼に追いかけられる日々が始まったのであった。
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岡谷
-2004-06-15 00:50:58
ヨウは知っていた。
こんな場所に身を隠しても、すぐに見つかるだろうというコトを。
今いる場所に身を隠そうという考えは、そもそもヨウにはなかった。
少しの休息でも得られるならと、ヨウはビルの隙間に飛び込んだのだった。
ココが、Oniに見つかるのも時間の問題だろう・・・・・・。
Oniは少し隠れただけでヨウを見逃すようなコトはしない。
Oniとは、そんな甘いモノではないのだ・・・・・・。
『もうすぐ見つかるだろう』
ヨウはそう思いながら、今与えられたわずかな時間で、少しだけでも考えてみようと思っていた。
『あのじいさんはなんだったんだ』
『Oniとは何なんだ』
『Oniはなぜ俺を追いかけるのだろう』
考えたが、そんな短時間で何もかもが分かるわけはない。
少し離れた場所から、『ずん・ずん』とOniの迫ってくる足音が聞こえてきた。
『Oni・・・・・・』
ヨウはもう逃げなければと思い、立ち上がった。
その時、ヨウは一つだけ理解したコトがあった。
『Oniが追いかけてくる・・・・・・。これは、Onigokkoという昔子ども達がしていた遊び・・・・・・。』
『コレは、自分の人生を賭けなければいけないOnigokkoなんだ・・・・・・』
もうOniはすぐそこまで迫っている。
ヨウは、再び逃げる決意を固め、ビル街の隙間を歩いていった。
『Onigokko・・・・・・』
歩きながら決意した。
『俺はこのOnigokkoで、生き残ってやろう』と。
大きな赤い体が見えたような気がした。
ヨウはそのままビル街の暗闇へと、逃げていった。
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岡谷
-2004-06-15 02:21:14
暗闇へ暗闇へ・・・・・・。
ヨウは進んだ。
Oniはすぐそこまで迫っているだろう。
立ち止まっていれば、捕まるのは時間の問題だ。
捕まったら・・・・・・。
ヨウは考えるだけでも、恐ろしかった。
ビル街の暗闇の中にも、小さな灯りは少しだけ灯っている。
灯りを辿るように、ヨウは逃げた。
迫ってくる大きな赤い体。
小さな灯りを頼りに進むヨウは、まるで死んでしまいそうな雪山で山小屋の灯りを求めるかのようだった。
『ガタン!!!』
後ろで何かが、何かを倒しているような音が聞こえた。
『Oniだ・・・・・・』
そう思った時、向こうに赤い大きな体が見えた。
『ああ・・・・・・。俺はもう・・・・・・』
Oniが迫ってきているのを見て、ヨウは自分の人生の終わりを感じ、覚悟を決めようとしていた。
『殺るなら・・・・・・。せめてひと思いに・・・・・・』
その時。
女性の声が聞こえた。
「こっちへ!!! 早く!!!」
ヨウは、何かに導かれるように、声のする方へ歩いていった。
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岡谷
-2004-06-17 01:22:51
わずかに聞こえる声を頼りに、ヨウは力を絞り出すようにしながら、そちらへと歩いて行った。
Oniへの恐怖感や、今までの痛みが、ヨウの心をくじけさせようとしていた。
『・・・・・・苦しい』
ヨウは今にも倒れそうだった。
『・・・・・・このまま逝ってしまいたい』
何度もそう思った。
だが・・・・・・。
ヨウは声に向かって歩いた。
死ぬのだという絶望感から、その声は助けようとしてくれている。
ヨウはそれを信じて、賭けた。
小さなドアが目に入った。
そして、そのドアの前にいたのは、青いチャイナドレスをきた女性だった。
「こっちへ!」
その青いチャイナドレスを着た女性が、ヨウを呼んだ。
ヨウはふらふらとしながら、女性の元へ歩いた。
・・・・・・そして、意識が途切れた。
意識が途切れる寸前、ヨウは暖かいモノに抱き留められたような気がした・・・・・・。
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岡谷
-2004-06-17 01:33:52
『蒼・・・・・・』
それが、意識を取り戻しかけたヨウが、最初に見た印象だった。
視界がハッキリしてくる。
ヨウが見た、『蒼』が女性の姿になった。
『蒼い女・・・・・・』
ヨウが目を覚ましたのを見て、女性はホッとしたように言った。
「気が付いたのね・・・・・・。ああ・・・・・・。良かった・・・・・・」
女性は、『蒼子』と名乗った。
本名かどうか、確かめるすべはない。
ただ、ヨウは彼女にふさわしい名前だと思った。
ヨウも、名乗った。
長い間、二人は黙っていた。
「あなた・・・・・・。Oniに追いかけられてるんでしょう?」
最初に口を開いたのは、蒼子の方だった。
ヨウは、蒼子がOniを知っていたのに少し驚いたが、すぐに返事を返した。
「・・・・・そうだ」
「やっぱりね・・・・・」
蒼子はヨウの言葉を聞いて立ち上がった。
そして、話を始めた。
「Oniのコト、私が知っているのは・・・・・・」
ヨウは、蒼子を見た。
キレイな目が印象に残る。
その目を見ながら、ヨウは蒼子の話を聞いていた。
「私の・・・・・・。夫が・・・・・・。Onigokkoの犠牲に、なったからよ・・・・・・」
ヨウは黙って蒼子の話を聞いていた。
胸の中にある、驚きと、蒼子に対して芽生えた感情を隠しながら・・・・・・。
( 続く )
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