「お暴露マン」




この挿絵と内容とはなんの関係もありません




 深夜の墓場。
 寺の住職に仕える小坊主が墓石の陰に隠れて、じっと動かずにいる。
 寺内の管理をまかされた顔なじみの墓守り男が通りかかったところへ、ささやくように声をかける。

「やい、墓掘り男」
「俺は、墓守り男だ」
「一字しか違わん」
「ずいぶん違うわい」
「怪しい者は見たか?」
「なにも見えん」
「見えたら、ただではおかん。今夜こそは、あやつをひっ捕えねば……」

 突然、闇から浮き出るように、不気味な人影が二人の前に現われる。

 震えあがる小坊主と墓守り男。
「ひえーーーーっ!!」

 しかし、よく見れば、それは二人にとって旧知の人物だった。
「な〜んだ、ご住職か〜」
「夜中に墓場の中、歩きまわらないでくださいよ」
「今は夜中かの?」
「まったく……ご住職もボケたもんだなあ」
「そういえば、墓場だの」

 不意に、こける住職。
 住職は、地面にころがっていた人間の身体に足を取られ、つんのめったのだ。

 懐中電灯を当てて見ると、新しい墓のひとつが掘り返されているではないか。棺桶の中の物が盗まれ、白目をむいた死者が身ぐるみ剥がれ、野ざらしとなっている。

 だが、小坊主と墓守り男は、見慣れた光景であるかのように、驚いた様子も見せない。
「あ〜あ、こーゆーことしやがって」
「寺の面目、丸つぶれ」

 死体を蹴り飛ばして、墓穴の中にころがり落とす小坊主。
「仕方がない……」

 闇の中、シャベルでせっせせっせと、掘り返された穴を埋め立てる小坊主と墓守り男。
 そばで、ボケーっと見ている住職。

 やがて。もとどおりに修復した墓を前にして、つぶやく小坊主。
「……証拠隠滅」

 かたわらの墓守り男が小坊主にささやく。
「おまえ、こんなことばかりやってていいのか?」
「他人のことが言えるか。おまえこそ、ぜんぜん役目を果たしておらんではないか。今年に入ってから、新しい墓はすべて、墓荒らしによって掘り返され、副葬品が奪い取られてるというのに」
「やはり、警察に連絡したほうが……」
「そんなことをすれば、俺たちは職務怠慢で……」

 突然、静まり返った墓地の中にけたたましい笑い声が轟きわたる。

 ドキリとして、笑い声が起こった方向へ電灯を向ける二人。
「何者だ?」

「わたしの名は、お暴露マン!」
「なんだって?」
「すべて、見ておったぞ」
「犯人をか?」
「おまえらのやったことをだ!」

「うぬ……」
 小坊主、握っていたシャベルに思わず、力をこめる。

「おっ。さては、口封じのため暴力行為におよぼうというのだな?」

 身をかまえ、なにやら特徴的で大げさなポーズを取るお暴露マン。
 護身の拳法かと思いきや、そんな格好のまま、呪文を唱えでもするように、大声で叫ぶ。

「オバクロマ〜ティック……ウルトラ=ダウト!」

 それを見て、大笑いする墓守り男と小坊主。
「ゲハハハ! バカでやんのーーっ!」

「秘密よ、姿をあらわすのだーーっ! さあ。みんな、出てこ〜〜い!」

 すると。
 ボケの住職も含めた四人を取り巻く、周囲のおびただしい墓所を覆う土が、もこもこもこもこと盛り上がり、土中から、白骨化したり、げろげろに腐乱したりで、いずれも凄まじい形相をさらした死者たちが姿をあらわす。

 抱き合って、震えあがる小坊主と墓守り男。
「わーーっ!! なんなんだ、これはーーっ!?」

「自業の自得だ! これだけいっぺんに、埋めなおした墓を暴き返されては、もはや収拾がつかんであろうが」

「うががががが……」
 頭をかかえて、悶え苦しむ小坊主。

「おまえたちは、寺の面目などというちっぽけな見栄のため、神聖な霊場が墓泥棒に荒らされるにおよんでも通報をせず、どこまでも事実を覆い隠して、宗教者としての道を踏みはずしたのだ」

「もはや、サイタマ県警を呼んで、罪を贖うほかにおまえらのやることはない」


 観念したように、お暴露マンの前にひざまづく小坊主。
「わかった。自首する、自首する。だが、その前に……」
「正義の味方ならば教えてくれ。いったい、だれが葬式のたびに墓を掘り返した犯人なんだ?」
「諸悪の根源は、その墓泥棒。このまま、俺たちだけ罰せられるのでは、あまりにも不条理というもの」

「いや〜、それが……」
 照れくさげに頭をかく、お暴露マン。
「見ておらんかったのだ……アハハハ」

 呆気に取られた顔をする小坊主と墓守り男。

「お暴露マンの使命は、隠された悪事を暴きたてることで、泥棒を捕らえることではないからなー」
「そんな〜〜」
「いざ、サラバだ!」

 高らかな笑い声とともに悠然とした足取りで、日の出の方角へ去っていくお暴露マン。
「ハッハッハッハッハ!」

 シャベルを振りまわして猛り狂い、怒鳴りちらす墓守り男と小坊主。
「バカヤローーッ!」
「なにしに出てきやがったんだよ〜っ?」



( お墓荒らしの巻  おしまい )




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